皆様にCF企画を応援して頂き、翻訳出版が決定した『Les ignorants(ワイン知らずマンガ知らず・仮)』は現在、日本語版の制作中。2022年春の出版を目指し、精力的に準備をしています。ぜひ楽しみにお待ちください。

さて、本書はフランス・ロワール地方で自然派ワインを生産するリシャール・ルロワ氏のワインづくりの一年を描いた漫画ですが、実は私自身、自然派ワインを理解するために、この数年、専門知識のある方々を訪ね、勉強させて頂いてきました。その中でも、実際に自然農法を実践し、ブドウ栽培からワイン醸造、出荷までを手掛ける大岡弘武さんは別格の存在です。大岡さんは本場フランスで20年もワインづくりを行い、2016年に帰国されてから現在に至るまで、岡山県で栽培醸造をしていらっしゃる、まさにプロ中のプロ。この日本における自然派ワインの第一人者です。

(大岡さんの詳しいプロフィールはこちらHPをご覧ください。)

その大岡さんが今月、新刊を出されました。タイトルもズバリ『大岡弘武のワインづくり』(エクスナレッジ)、副題として「自然派ワインと風土と農業と」とあります。ここには大岡さんのワインづくりの本質が網羅されていると思います。

特に私が感心したのは、”大岡流”ワインづくりの過程とその工夫が、懇切丁寧に書かれている点。しかも、写真やカット入りで、収穫からピジャージュ破砕、発酵、プレス、熟成、瓶詰め、そして打栓まで、大岡さん自身の言葉で明かされます。私も一瞬、こんなに公開していいものか、とドキドキしましたが、それについてこんな風に書かれています。

「私もそうですが、自然派ワインの生産者の多くは製造方法を全部開示しています。生産者と消費者が真の信頼関係を築くために、消費者に製造方法を伝えるのは義務と考えています。真似する人が出てきても一向にかまいません。全部教えたとしても、絶対に同じワインはつくれないからです」

よく様々な生産物や製品に対して「企業秘密」という言葉が使われます。どんなものにも隠しておきたい情報はあるものです。しかし「全部教えてかまいません」という力強い姿勢に、私は圧倒される思いがしました。もちろんそこには、大岡さんのワインづくりの自信と確かさがうかがえます。では、どうして「同じワインはつくれない」のでしょうか? それは、ぜひ本編を読んで納得してみてください。

本編は大きく3つの章で構成されます。

第1章 日本で自然派ワインをつくるということ

初めにワインづくりに目覚め、ワインを一生の仕事とすることに至る大岡さんの半生が描かれます。フランス留学から、現地でのワイン修業とその成功、そして日本に戻ってからのご苦労など。自然派ワインづくりの信念が育まれる過程が明かされます。

第2章 栽培醸造家という仕事

この章では、ブドウ栽培について語られます。豊富な写真やカットによって、ブドウ造りの基本と、日本でワイン用のブドウ栽培をすることの困難と工夫が丁寧に説明されています。

第3章 自然派ワインができるまで

最終章で、大岡さん流のワインづくりをたっぷりと紹介してくれます。発酵に使うタンクや瓶詰めの注意点まで、ワイン生産のプロセスの詳細で貴重な記録となっています。酸化防止剤「亜硫酸」についても、他では見られない興味深い記述があります。

化学肥料や除草剤、防腐剤を一切使用しない自然農法は、人間の健康のみならず、土壌の永続のために今後最も必要な営みの1つだと私も考えています。自然派ワインのみならず、ワインと食文化全般に関心のある方に、ぜひおすすめしたい一冊です。