TERRAでイタリアを楽しんでくださっているみなさま、いつもありがとうございます。
去年8月のクラウドファンディングの成功以降、私は『ワイン知らずマンガ知らず・仮』(原題Les ignorants)の解説執筆のため、ワインの専門家や醸造家を取材しています。
特に本書の幕開けである冬の時期、実際のブドウ畑の様子はどうなのか大変気になっていました。本来なら、フランスのロワール地方へ現地取材に行きたいところですが、このコロナ禍ではままなりません。
そこで、本書の主人公リシャール・ルロワ氏のように、個人経営のワイナリーを持ち、自らナチュラル・ワインを造っている方を探していました。そんな折に出会った勝沼の渡邊哲也さんに今回はお話を伺いました。
2月1日、寒風が吹き抜ける快晴の朝。冷たく澄んだ日川の水が、勝沼の盆地を潤すのどかな一角のワイナリー、Casa Watanabeに足を運びました。渡邊さんはその畑地を利用した「ワイン村」建設プロジェクトに参加され、2020年個人経営のワイナリーを始められたといいます。小規模ながらも、個性あふれるワインを産み出す醸造所を「マイクロ・ワイナリー」と呼ぶのだそうです。
渡邊さんがワイン造りを始めたのは、イタリア好きが高じてのこと。言葉を学び、実際に現地を旅してワインに心打たれたのが、そのきっかけだとか。強烈に人を惹きつけるイタリアの底力を、ここでもかいま見た気がします。
渡邊さんのワイナリーには、すべての設備がコンパクトにまとまったワイン用工房に、試飲用のカウンターを据えた事務所が併設されています。清潔で、見通しがきくので作業の様子がよくわかります。離れた場所にはブドウ畑も借りていて、自前のものも栽培中ですが、現在は契約農家からブドウを買い入れて醸造を行うのが主体です。
『ワイン知らずマンガ知らず』の冒頭には、冬のブドウの木を手入れする場面があります。栽培家のリシャールは、農作業の初心者エティエンヌにこう教えます。「ブドウはツル科植物だ。支柱をしてやらねば、枝があちこちに行ってしまう。剪定といっても適当に切ればいいってものじゃない。根を守るためにやるんだ。今は冬だから、ブドウは眠っているが、夏を想像しながら剪定してやらねばならん。わかるか?」
そんな場面を渡邊さんと一緒に読んでいると、「私の畑では、荒剪定を12月頃にします。枝に雪が積もって、折れたりしないように。本格的な剪定は1月、2月にやります。古い枝に実が付くのは良くないんですね。下から伸びて出てくる新しい枝に付くよう、古い枝を落としてやります。そして、枝が柔らかいうちに誘引をしてやるんです」。そのように教えてくれました。
渡邊さんはさらに、3月頃には去年以前のワインの瓶詰めを行いつつ、畑の草刈りをしたり、芽かきをしたりと、休みなく手入れは続くそうです。その丁寧な説明からは、1つ1つの作業に大切な意味があることを教わった気がします。
さて本書の検証を終えると、渡邊さんの自慢のワインの試飲をさせていただくことに。 渡邊さんのところでは、日本の固有品種である「甲州」と「マスカット・ベーリーA」を主体にワインを造っています。
甲州で造った白ワインを樽で寝かせた「K2019」は果実味がしっかりとあり、すっきりとした酸味も溢れています。また樽の風味が加わることでコクもあって、味わいが一段と深くなっています。
マスカット・ベーリーAを使ったロゼワイン「Bailey A Rosado 2021」は、香りも味わいもフルーティーでありながら、仄かな苦味も感じる大人の味わいです。
どちらもナチュラル・ワインならではの澄み切った、すっきりとした味わいで、和食にも合いそうです。他にも渡邊さんが愛情を込め、丁寧に仕込まれたワインの数々をCasa Watanabeでは味わうことができます。
ご興味ある方はホームページをご覧いただき、ぜひ渡邊さんの素敵なワイナリーをご訪問ください。
Casa Watanabeに関する情報はこちら。
http://www.winewatanabe.com