今回は、漫画『無知な者たち』のもう一人の主人公をご紹介します。前回のブログで紹介した作者のエティエンヌ・ダヴォドー氏(Étienne Davodeau)が、そのブドウ栽培とワイン生産の哲学に魅了され、本書を描くきっかけとなった人物です。

リシャール・ルロワ

本書の主人公であるワイン生産者リシャール・ルロワ氏

その人物こそ、リシャール・ルロワ氏(Richard Leroy)です。彼は大学時代に妻となるソフィーさんと一緒にワインの勉強を始めます。卒業後はパリの銀行に勤めるのですが、並行してワインの研鑽を積み、1996年アンジュー地方のレ・ノエル・ド・モンブノー(Les Noëls de Monbenault)に農地を購入し、独自のワイン生産を始めます。初めは2ヘクタールからのスタートだったといいます。

ワイン

リシャールの代表的白ワイン、レ・ノエル・デ・モンブノー

彼らの代表的なワインといえば、その地名を名付けた”Les Noël de Monbenault”。シュナン・ブラン100%で仕込むその白ワインは、現在では酸化防止剤を一切使用せずに作り上げられます。それが可能なのも、彼のビオ・ディナミ農法により、ブドウの潜在能力がフルに発揮されているからでしょう。ミネラル感が豊富で、雑味のない爽快な味わいだといいます。

ビオディナミ

星の動きに合わせて肥料まきをするビオ・ディナミ農法の1シーン

ビオ・ディナミ農法については、別の機会に詳しく書きたいと思いますが、簡単に言うと、自然との共存を図る農法です。化学肥料も除草剤も一切使わず、瓶詰めの際に必要な保存料の亜硫酸も極力減らします。減らすだけでも大変なことなのですが、リシャールの製法ではゼロにします。しかし、その現場は、まさに自然との格闘の場と言えます。作者のエティエンヌはリシャールとともに、冬の剪定、春の棚づくり、夏の除草作業や肥料撒きなど、一年間の熾烈な生産現場を共にし、この農法の過酷さを体験します。しかしそんな彼には、自然そしてワインを敬う気持ちが日に日に芽生え、まさに天啓のごとく真理に目覚めていくのです。それが本書の見所です。ぜひ楽しみにしてくださいね。