前回のブログで触れましたが、本書『無知なる者たち』の主人公、ワイン生産者のリシャール・ルロワ氏が実践するのは「ビオディナミ農法」と言われる自然農法の一つです。

ビオディナミ農法のシーン

本書におけるビオディナミ農法の一場面

詳しい話はまた別の機会に譲りますが、今日はよくいただく質問に答える形で書いてみたいと思います。

 

その質問とは、「ビオディナミワイン」と「有機(オーガニック)ワイン」とでは、何が違うのか、です。

 

スーパーなどで最近よく目にする「有機(オーガニック)ワイン」とは、「有機農法」で栽培された葡萄を用いたワインです。有機農法とは、化学肥料、農薬、除草剤を使わず、有機肥料(鶏糞など)から作物を育てる方法です。ただ、病害虫予防の薬や一部の農薬などが許されており、国や生産者によって規定は異なります。ともかく、化学的、人工的な異物をできるだけ排除した農法と言えます。そのように育った葡萄を、自然酵母で発酵させたものを「有機(オーガニック)ワイン」と呼んでいます。

 

一方、「ビオディナミ農法」も有機農法の一種ですが、先の有機農法では若干許されていた病害虫予防の薬などでさえ一切使わずに、自然の状態を可能な限り維持して作物を育てる農法です。それには、独自の工夫を取り入れます。

例えば、

・牛糞やタンポポなどを、牛の角に詰め、土中で寝かせた調合剤を肥料とする。

・家畜の糞や石英でできる調合剤を散布する。

・「播種カレンダー」という星の位置を記したカレンダーを使って種まきや植え付けをする。

など、など。ちょっとストイックですが、すべては自然由来のものを利用するわけです。そしてその環境や土壌が持つ生命力を活用し、引き出していきます。

 

簡潔にまとめれば、有機農法は「有害性の高い要素をできるだけ取り除く」方法であるのに対し、ビオディナミ農法は「自然の持つポテンシャルを究極に高める」方法と言えます。

 

さて、そのような理屈を聞いても、やはり肝心なのはワインのお味ですよね。先の質問に続き、必ず来るのが「そんなビオディナミワイン、美味しいの? どんな味? 他と違うの?」。

ビオディナミワイン

ロワール地方のシュナン・ブランで作られたビオディナミワイン

そこで今回、ビオディナミワインを入手してみました。リシャール・ルロワ氏といえば「Les Noël de Monbenault(ル・ノエル・ドゥ・モンブノー)」、ロワール地方のシュナン・ブランという葡萄を使った白ワインです。しかし、日本では簡単に手に入りません。そこで、生産地と葡萄が同じビオディナミワインを見つけてきました。

リシャールのワイン

本書に描かれたリシャール氏のワイン

やはり、ビオディナミワインの特徴は、葡萄がしっかり育った、力強い味わいがワインに込められていることです。

 

まず色味は濃い小麦色、黄金色に近く、かなり熟成感があります。香りは、最初は杏を思わせる柑橘系ですが、さらに嗅いでみると蜂蜜のニュアンスも来ます。しっかりと濃厚な香りを放つのですが、これこそ自然栽培された葡萄の力だと思います。

ビオディナミワイン試飲

ミネラル感豊富なビオディナミワインの味わいは作られた土壌を感じさせる

いよいよ飲んでみます。ファーストアタックが凄いインパクトです。力強い酸味と、塩味さえ感じるほどのミネラル感が一気に口に広がります。ヴィンテージは2019年ですが、熟成感があり、骨太さ、パワフルさが表に出ます。しかしながら、果実味もしっかりあって柔らかいです。

 

喉越しもいいです。飲み込んだあとには、苦味が余韻として広がります。これはシュナン・ブラン独特のものだと思いますが、ソーヴィニョン・ブランを彷彿とさせる苦味です。やがて苦味がほのかになり、鉄のニュアンスが残ります。

 

私自身の好みでもありますが、「ミネラル感」が豊富なところがビオディナミワインの特長ではないでしょうか。果実味だけでなく、土の味までしてきます。

 

本書にリシャール氏のこんなセリフがあります。

 

「僕らの体に土壌を語り聞かせるワインを作っているんだ」

 

まさにそんな味わいのワインだったと思います。