「サウザンブックス社」よりクラウド・ファンディングを利用しての、フランス発ワイン漫画の出版企画を、前回からブログで紹介させて頂いています。
さて、なぜイタリア語の翻訳者である私が、フランスの漫画を出版しようとしているのか、疑問に思われると思います。原作の「Les ignorants(無知なる者たち)」は初版が2011年なのですが、フランス国内の売り上げ総部数が、バンド・デシネ(フランスの漫画)では異例の27万部というヒットを飛ばし、その成功の波に乗り、すぐに海外でも翻訳出版が行われ、すでに13ヶ国語に訳されています。とりわけ、その翻訳版でも成功を収めたのがイタリアだったことが、私との縁をつないでくれました。
話は少し飛びますが、長年私はイタリアの作家チェーザレ・パヴェーゼ(Cesare Pavese 1908-1950)を研究しています。そのパヴェーゼの生家が現在「チェーザレ・パヴェーゼ記念館(Centro Pavesiano Museo Casa Natale)」となって、ピエモンテ州のサント・ステーファノ・ベルボに残っています。縁あって、私はその記念館を拠点とする国際パヴェーゼ研究所の研究員となり、故ルイージ・ガッティ館長と親しくさせて頂いていました。
そのガッティ先生のご親戚が、隣町のカネッリで葡萄畑とワイン醸造所「Cascina Barisel(カシーナ・バリゼル)」を経営しています。そのご一家とも懇意にさせて頂いており、それがこのワイン漫画との出会いに繋がったというわけです。創業者のエンリーコさん、現在の所長のフランコさんには、たびたびお世話になっているのですが、このワイン醸造所にはいつも多彩な顔ぶれ、ワインの関係者はもちろん、レストラン経営者、ソムリエ、料理研究家などが出入りしており、私はそうした人との交流も楽しみにバリゼルに通っていました。ここはまるで私の「ワイン学校」でありましたが、そんな交流の中で「Les ignorants」のイタリア語訳「Gli ignoranti」との出会いが生まれました。
フランコさんは言います。「ワインは土が作る。我々はこの土を守りたい。この土を守り、未来へ、そして永遠に持続させることが使命だと思ってる。だからいつも、どうやってこの自然と一緒に生きるか探しているんだ」。そんな信念を知るとともに、ランゲの丘に広がる葡萄畑を一緒に歩き回りながら、農法やワインについて教えてもらう時間が、私には至福となりました。
ある日、カンティーナに樽を運ぶ作業を手伝ったとき、「これには、今の僕の思いが詰まってる。読んでみてくれないか」とおもむろに一冊の本を託されました。それが「Gli ignoranti」だったのです。
日本に帰って一読し「これは自然派ワインの理想の教科書ではないか」と感動し、即座に翻訳を終えていました。しばらく時間が経つと、その漫画の一場面、一場面にフランコさんを始め、バリゼルでともに過ごした人々やその自然が重なり合うような思いにもなっていました。すると、何かに導かれるように「いつかこれを日本のワイン・ファンにも届けたい」、そんな思いが私の心に芽生えたのです。
Cascina Bariselの公式HPはこちらでご覧になれます: http://www.barisel.it