今回は、私の翻訳企画で取り上げる漫画『無知な者たち』の主人公を紹介します。すでに書きました通り、これは漫画で描かれたドキュメンタリーなので、漫画の作者もワイン生産者も実在の人物です。つまり、作者がそのまま主人公なのです。
まずは、本書の作者エティエンヌ・ダヴォドー氏(Étienne Davodeau)の略歴をご紹介します。
フランスの北西部アンジュー地方在住。1992年「サルテの友達(Les Amis de Saltiel)」で漫画家デビュー。小説やルポルタージュを漫画で表現するのが特徴。扱うテーマは、政治や歴史的に重要な人物、または現代の魅力溢れる人物など多様である。2013年、代表作「素顔のルル(Lulu femme nue)」がソルヴェイグ・アンスパック監督により映画化され、好評を博す。その他、代表作に「田舎者! 政治的対立のニュース」(2006), 「君を愛する人」(2006), 「醜い人々」(2008),「人間は死んだ」(2010)などがある。本作「無知なる者たち」(2011)で、2012年のアングレーム国際漫画祭の公式セレクションのノミネートされ世界的な知名度を得る。
ざっと略歴を見ただけでも、確たる評価がわかっていただけるかと思いますが、フランスではフィクションもドキュメンタリーも作品にできる実力者として、常に高い評価を得ています
そんな彼の住むフランス北西部、ロワール川のほとりはワインの名産地でもあります。ところが彼はワインには無頓着でした。好みのワインが2、3あるくらいで、ワインを語るほどの知識はなかったといいます。しかしある日、ちょっと偏屈なワイン醸造家との出会いが世界を一変させます。それがリシャール・ルロワ氏。どうしてワインを作るのか、どのように作るのか、誰のために作るのか、そんな1つ1つの細部にまで、明確なヴィジョンを持つ醸造家に魅了されます。そして、その仕事へのこだわりを、つぶさに描きたくなったと語っています。
そんな二人の約一年半の共同作業を描いたのが、本書『無知な者たち』です。特にワイン造りを経験しながら、大地への思いを深めるエティエンヌの姿に感銘を受けます。そんな彼は、すでに2004年に来日も果たしています。日本の漫画にも大変に関心を持っており、同じワイン漫画である『神の雫』もしっかり読んでいるとか。ぜひこの翻訳出版を実現させ、再来日の機会になればと願っています。
次回はエティエンヌを魅了した醸造家、もう一人の主人公リシャール・ルロワ氏をご紹介します。お楽しみに。